医師の規律を守るのも総務の仕事

第3章 病院事務
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病院という場所は、いろんな個性がぶつかる場所でもあります。

スタッフ間の連携だけでも大変なのに、そこにクセの強い医師が加わると空気は一変します。しかもその医師が、元・開業医だったりすると…。

手に負えないこともある。

今回着任した医師も、かつては自分でクリニックを開業し理事長として長年采配を振るっていた方。そのクリニックを後進に託し勤務医として当院にやってきました。

問題は、その肩書きではありません。
問題は、その働き方のクセです。

勤務医である以上、たとえ医師であっても、組織の一員。個人の正しさが、全体の最適解と噛み合わないことなんて、いくらでもあります。

「早く行きたければ1人で行け。遠くへ行きたければみんなで行け。」

──それが通じないのが、医療現場のリアル。

「この方法は良くない」「前の病院ではこうだった」そんな言葉を連発しながら、自分のスタイルを押し通そうとする。

ただでさえ、医師という職種は対人スキルに課題を抱えがち。それに“俺流”が加わると、現場はもう限界です。

看護師、技師、事務。
関わる人が次々と疲弊していきます。

言っていること自体は、もしかしたら正しいのかもしれません。でも、ここは個人クリニックではなく、組織として動いている病院です。

「自分にとっての最適」が「病院全体にとっての最適」だとは限らない。むしろ、そのズレこそがトラブルの温床になります。


たとえば

当院がコカコーラと契約しているのに、「ペプシを使え」と言う。
iPhone14で十分なのに、「iPhone16Proの方が高性能」と言う。

根拠は“なんとなく”か“個人的な好み”。
こういうの、困るんですよね。


本当にやりたいようにやりたいなら、もう一度開業するしかありません。経営者としてリスクを背負うからこそ、裁量が与えられるわけです。

勤務医という立場は、あくまで“組織の一員”。ヒラ社員である以上、たとえ医師でも権限は限られます。それが、資本主義のルールです。

そして、そんな相応の年齢の医師に「ちょっと、それは困ります」と説教をするのが、ぼくの仕事。

楽しいわけがないし、言い方を間違えれば機嫌を損ねる。機嫌を損ねれば、診療に影響が出て、最終的には患者様にも影響する。そして、それが病院の評判や収益にも跳ね返ってくる。

なので──

上司にアドバイスをもらったり、同席してもらったり、ChatGPTに相談したりします。
でも結局のところ、最後は“対人スキル”と“地味な根回し”の世界。

生かさず、殺さず。そのちょうどいいところでバランスを取るのが、ぼくの仕事です

あー大変。

そもそも。
医師の教育って、院長の仕事? 総務の仕事? それとも人事の仕事?

正直、誰の担当なのかも曖昧なまま。でも、だからこそ「現場の声」を伝え続けるしかないと思っています。大事なのは、個人の正しさに流されないこと。組織全体として、どう連携し、支え合っていくか。

医師もスタッフも、どちらか一方が我慢するのではなく、お互いが歩み寄る文化をつくること。

ただ叱るのではなく、立場を理解しながら伝えること。そのために必要なのは、肩書きでも権限でもなく関係性です。

この難しさを乗り越えて、みんなが働きやすい環境をつくるために。
今日もまた、静かに戦っています。

あー大変。