政府が骨太方針を発表してから1ヶ月が経過しました。
令和7年6月13日「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」(骨太方針2025)が経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定されました。
この方針は、来年の診療報酬改定の土台となるものです。
今回は、骨太方針の中から診療報酬に関する部分を整理しつつ、2026年度の改定がどう進むのか。現時点での要点と、個人的な見解をまとめておきます。
診療報酬はプラス改定の見込み 骨太の方針2025まとめ

超ざっくりと診療報酬に関連するポイントを抜き出すと以下のようになります。
- 公定価格(診療報酬等)の引き上げ方針
高齢化に加え「人件費・物価高騰」「病院経営の安定」を勘案し、診療報酬へ反映する方針 - 診療報酬の評価軸の転換
「人員配置中心」から「プロセス」や「アウトカム(成果)」重視の評価へ段階的に移行 - 医療DXおよびICTの推進
電子処方箋の拡大、PHR(個人健康記録)の活用、クラウドやAI導入などを支援 - 経済的負担の見直しと構造改革
OTC類似薬の保険給付見直し、地域フォーミュラリの全国展開、病床削減や地域医療構想の推進。医療・介護の連携強化、地域包括ケアの深化
おおむね、2024年の改定路線を踏襲する形です。新しい要素は少なく、「継続と深化」の方針が色濃く出ています。
2026年度の診療報酬改定は「物価高・人件費高騰をカバーできるプラス改定」「質と成果に応じた報酬評価」「医療DX導入促進による業務効率化」を中心に据えた政策展開です。
もっとも、ここから先は毎度のごとく、財務省や学会などから横槍が入り、修正が加わっていきます。
厚労省の議論、中医協での審議、国会での予算配分などが最終的なカギとなるでしょう。
増える分の財源はどうする? 薬価は厳しいでしょうね
まず財源です。ここが毎回の焦点。
すでに薬価は限界近くまで下げられており、今後の財源捻出手段としては以下のような“引き算”が想定されます。
- OTC類似薬の選定療養化
- 後発品加算の見直し
- 高額入院料の要件見直し
- 重症度・看護必要度が低い症例の加算引き下げ
- 平均在院日数超過時の評価見直し
- 過剰設備・重複検査の抑制(画像診断など)
- 診療所の生活習慣病管理料の適正化
- 病院→施設→在宅への移行が進まないケースの報酬減
いわば「薬剤・入院・診療所」の3領域から、2〜3%程度の財源引き出しを図る流れです。その上で、DXや人件費、重症対応など“重点領域”へ再分配していく、という設計
「メリハリ+構造改革型」の設計がほぼ必須です。従来の全体一律+0.5%のような微調整型改定とは大きく異なるメリットとデメリットが明確に分かれる改定になる可能性が高いです。
いま、診療報酬は“限界まで複雑化”している
ぼくは診療報酬の加算主義・複雑化に強く反対です。現場では、加算の取得のために…
- 要件確認
- 適否チェック
- 記録整合性の確認
などに、膨大な時間と手間を取られています。しかも記録者のスキル次第で加算の可否が左右されるという、なんとも不安定な設計
いまの診療報酬改定、こんな状態です
- 「賃上げのための加算」
- 「DX推進のための加算」
- 「入退院支援体制強化加算(地域包括ケアとの連携)」
- 「連携強化加算(外来診療計画策定加算)」
- 「看護必要度II・III」
- 「入院時食事療養費IIを選択していれば◯◯加算の対象外」 など…
これはもう、加算が制度疲弊の原因になっているレベルです。
ならば、今やるべきは「スリム化」と「見直し」では?
診療報酬をこれ以上複雑にするよりも、既存の報酬体系を整理して、要件を緩和し、職員の業務負荷を軽減する方向に進んでほしい。
例えば「7対1」から「8対1」へと基準を緩めるだけでも、実質的なプラス改定になりますし、不必要な人材紹介会社へのコストも減り、人材定着の土台にもつながります。
もう、人に対する新たな加算は限界です。やるべきは、「仕組みそのもの」を見直すこと。
診療報酬改定は撤退戦。財源・人手・政治的余力が限られる中で、これはもう撤退戦です。
崩壊しないように時間を稼ぎながら、最低限の未来を残すのです。全部は守れない。だからこそ、「どこを守り、どこを削るか」を明確に決めることが重要です。
本日のまとめ
2026年度改定は「評価の転換」+「削減の可視化」+「構造の再設計」という、大きな分岐点になるでしょう。
「今日より明日はよくなる」と言える社会を、本気で目指すなら、現場を制度疲弊させるやり方はもう限界だと、そろそろ認めた方がいいですね。