公立病院からやってきた院長と、民間病院のリアル

第3章 病院事務
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現場にやってきた、正しい人

当院に新しい院長がやってきました。

その院長はかつて公立病院で院長を務めており、長年の医療現場での経験もあり、知識も豊富。話し方も理路整然としていて、言っていることはどれも筋が通っている。正直なところ、リーダーとしては申し分ない人なのだと思います。

ただ、現場の空気は少しざわついている。

理由は明確です。公立病院と民間病院では、前提がまるで違うからです。

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公立と民間、そもそもの違い

公立病院と民間病院の最大の違いは、収益構造にあります。

公立病院は自治体が運営しているため、最終的には税金で補填されるという土台がある。赤字になっても何とかなる。だからこそ、利益が出にくい分野にも取り組みやすいという一面があります。

一方で民間病院は違います。利益を出せなければ、病院は終わる。理想も理念も、黒字あっての話。病院経営において「正しいこと」と「続けられること」は、必ずしも一致しないものです。

補助金の終わりと現実のはじまり

2020年からのコロナ禍は、病院経営にも大きな影響を与えましたが、2024年になると補助金も終了。世の中も医療現場も通常モードに戻りました。

そんな中で発表された決算は、多くの病院で赤字。
病院の赤字ランキングには、全国の国公立病院がずらりと並んでいました。

つまり、現状の診療報酬制度のもとでは、正しいことをしようとすればするほど赤字になる構造が、はっきりと露呈した年だったとも言えます。

正しさ vs 現実

もちろん、院長の言っていることは正しいのです。

病院内の整理整頓、接遇マナー、書類の正確性。どれも医療機関として大切な要素だし、これまで見過ごされてきた改善点に取り組もうとしている姿勢は評価されるべきです。

だけど、現実はそれほど甘くありません。

民間病院は、理想だけではやっていけない。何十億も赤字を出していては、人件費の見直し、診療体制の縮小、最悪の場合には閉院です。一般企業でいえば倒産と同じこと。

診療報酬という制度そのものが「手間をかけるほど収益が減る」ように設計されている以上、丁寧に書類を見直し、患者応対を徹底し、ミスを防ぐ体制を整えるには、時間と人手が必要になります。

でも、そのコストに報酬はつかない。丁寧さや誠実さは、自己負担のボランティアとして求められることも多い。

だからこそ、多くの民間病院では「割り切り」や「妥協」も、現場の知恵として生きてきました。

正しいことを貫いて倒れるより、多少の抜けや緩さを許容してでも現場を回す。それが、日々の現実です。

正解はどこにあるのか

経営にとっての正解、現場にとっての正解、患者にとっての正解。どれも正しくて、でも、すべてを一度に成立させることはできない。

たぶん、「正解」なんてものは存在しなくて、そこにいる人たちの納得感や許容の平均で、なんとなく形づくられていくものなのだと思います。

院長のやっていることが正しいのは間違いありません。でも、それがこの病院での正解かどうかは、もう少し時間が経ってみないとわからない。

正しさと現実のあいだで、ぼくらは今日も働いている。