3夜連続で放送されたNHKの医療ドキュメンタリー。
- ETV特集「“断らない病院”のリアル」
- NHKスペシャル「医療限界社会 追いつめられた病院で」
- クローズアップ現代「都市部でも…相次ぐ病院閉鎖」
どれもよくできていたし、現場の苦しさは確かに伝わったと思います。ただ、あえて言えば「今さらこの内容を全国放送でやる理由はなんだろう」という引っかかりは残りました。
これらの問題はずっと前から現場では言われてきたこと。なぜこのタイミングで? どこで誰が動いたのか?
報道の体を取りながら、制度転換の地ならしが始まっているようにも見えましたのでまとめてみたいと思います。
診療報酬制度は限界を超えている
医療の売上である診療報酬は国が決定しています。しかも2年ごとに細かく査定されています。診療報酬は毎回下げられているのは周知の通りです。
そんな仕組みで現場を維持できるわけがない。だったら、いっそ「全部国の施設=全公務員化」にして学校のように運営するしかない。
政治力が弱かったから、民間医療法人が増えすぎたのかも知れませんね。
そして政治は医師会に何も言えない。そのパワーバランスの歪みが、今の制度疲労にそのままつながっています。
少し報酬を上げても意味がない
診療報酬を少し上げたところで現場の給料は増えません。人件費・光熱費・建築コストに吸い込まれていくだけ。それくらい、病院という場所の「経営資源」はすでに枯渇しています。
お金がないのに制度も変えられないのが現実なんでしょう。
厚労省もたぶん分かっているけど、手を打てない。それが、今ぼくたちが立たされている場所。
コメンテーターは診療報酬の引き上げを訴えていた。
もちろん必要。でもね、それだけで済む問題ではありません。そもそも診療報酬でなんでも支えるという考え方自体がもう制度疲労を起こしています。
たとえば、入院が長引けば報酬は下がる。介護施設が見つからず退院できない患者が増えれば医療機関は赤字になります。
医療と介護、そして生活の境界が曖昧なまますべてが病院に押し付けられている。
集約化は正しいのか?
番組では「医療の集約化」「機能の絞り込み」も紹介されていました。大阪では公立病院が小児・周産期、民間が慢性期という役割分担で一定の成果が出ているという。
けれど、その正しさを実現するには住民の「がっかり」を受け止める仕組みが必要です。
この病院で全部診てくれると思ってたのに。救急はどこに行けばいいの。そんな声を自己責任で片付けるのではなく医療を選ぶ時代ですと丁寧に伝える社会の成熟が求められています。
医療に対する「あきらめ方」を考えるときです。都市でも病院は潰れます。それを受け入れる覚悟が社会全体に必要になりました。
お金は出さない。保険料の引き上げもイヤ。でも医療は無制限に提供してほしい。それはもう、成り立ちません。
本日のまとめ
ぼくは、厚労省は大幅な方向転換をするべきだと考えています。それはもう去年の段階で書いたことです。

この考えは変わっていない。
現場はどんどん疲弊していくのに制度設計は堂々巡りのまま。できないものはできないと、誰かが言わないといけない。
でもそれを言う政治家は、選挙に勝てない。シルバー民主主義の限界だと思う。
日本の皆保険制度は素晴らしいけれど「医療保険は万能」という幻想が、制度と現場を確実に壊しています。
医療にかかるコストを保険と税金で支えるのではなく、必要な人に必要な支援をどう届けるかに切り替える時期にきているでしょう。
高額医療制度も高齢者の自己負担率も守られすぎている部分がある。その現実を直視した議論が避けられてはならない。
良い方向に進むと良いですね